僕が体験した「破廉恥」な話。
それは、僕が中学2年生の時。
僕は、学校の先生に勧められて『漢字検定 準2級』を受験していた時の経験だ。
確か同じ学年で準2級を受験したのは僕一人だった。
中学生の僕は、そこそこ頭が良かったのだ。
勉強なんてしなくても、テストはだいたい良い点が取れた。自覚はなかったけど、それなりに要領のいいタイプだったのだろう
漢字検定の試験の当日。
難しい問題もあったけど、すらすらと進めていた。
「漢字の読みを答えなさい」の問題の一つに「破廉恥」というがあった。
僕はすぐに答えにピンときた。
あれだ。読み方はアレしかない。
「ふん!他の受験者はわかんねーだろーな!俺にはわかるけどな!」
なんて自信満々だった。世間知らずな若い時分にだけ持ち合わせる全能感だ。
解答欄に、「破廉恥」の読み方を書き込もうとした。
その時だ。
ふと、僕の鉛筆を持つ手が止まった。
僕の脳裏に、ある疑念がよぎった。
「・・・もし、あくまで可能性の話だけれど。
僕が正解だと思ってる読み方が間違っていたら?」
「・・・僕は、普段からそんなエロいことばっかり考えてる中学生として、漢字検定協会に知れ渡ってしまうんじゃないか!?」
なんだろう。
小学生の頃って何か悪いことをすると必ず「せーんせーに言ってやろー!」
あの自分が取り返しのつかないことをしてしまったようで、泣き出したくなるような感情。
今考えると学校名と本名がバレたところで大した問題じゃない。
それに採点するアルバイトの学生に知られるくらいだろう。
でも、当時の僕にはそれがこの上ないほど恥ずかしくて屈辱的なことに思えた。
「もしK也が知ったら、絶対みんなに言いふらすよな・・・」
当時の僕はシャイで、ひねくれてて、でもプライドだけは一丁前の、坊やだった。
下の毛も生えそろってないガキンチョのくせに。いや生えてたな。ワキより先に下だったな僕は。
「どうしよう。多分あってる。けどもし間違ったらやばい。生きててもいいことなんてない。俺なんて生きてる価値ない」
「時間です。鉛筆を置いてください」
試験の終了時刻を知らせる試験官の声が、教室にこだました。
カツカツという鉛筆を走らせる音と、時折ページをめくる紙の擦れるかすかな音だけが教室を覆っていた。
緊張の糸が切れたように、教室内がざわめき出す。
「 終わった・・・ 」
結局僕は、「破廉恥」の読みを答えることができなかった。
無事に試験には受かったのだけれど、僕の心の中ではずっと、何か腑に落ちない思いがあった。
まるで風邪薬を水で飲み込んだ後に、喉の奥につっかえているような感覚。
確かに飲み込んだはずなのに、本当は体の中まで届いていないような。
確かに正解が分かってたはずなのに、間違っているような。間違えてはいけないような。
違和感があった。
不合格とおんなじだった。
あの日から、僕の中で「破廉恥」の読み方は空欄のままだ。
僕の辞書の「破廉恥」のページには、ぽっかりと穴があいているんだ。
でも。
今なら、自信を持って答える。
「破廉恥」の読みを答えなさい
僕「てぃーばっく」
♪
大人になれない僕らの 強がりをひとつ聞いてくれ
逃げも隠れもしないから 笑いたい奴だけ笑え
せめて頼りない僕らの 自由の芽を摘み取らないで
水をあげるその役目を 果たせばいいんだろう?
♪
なぁ、14歳の俺?
・・・お前の答えさ、ちっとも間違ってなんかいなかったよ。